3.21/22 ポスター J

自閉症児の乗馬体験月数とHEIM score の上昇


慶野 宏臣1) 井原 一郎2) 美和 千尋3) 杉浦 玉紀4) 川喜田 健司5) 慶野 裕美6)

(
1)レモンクラブ・愛知県 2)野間馬ハイランド・愛媛県 3)名古屋大学・愛知県
4)京ヶ峰岡田病院・愛知県 5)明治鍼灸大学・京都府 6)愛知県コロニー・愛知県)


 ヒトと動物のよりよき関係の一つとして障害者乗馬が定着してきた。対象となる障害の範囲も身体的障害のみならず、自閉症、精神的発達障害、不登校、引き蘢り、高齢者などと拡大している。しかし、「乗馬活動を実行することでどれほどの治療・療育効果が期待できるか」に答えることのできる報告はまだほとんど無い。自閉症児が乗馬活動に参加することで療育的な効果が現れることは一般論としては認められてきている。しかし、症状、その程度などに個人差が大きいので実験群を設定しにくいことと、対照群を設定することがほとんど不可能なことから、詳細な分析はこれまでなされていない。したがって、これまでの報告は一人一人の症例の寄せ集め以上にはなさ
れていない。

 我々は先に自閉症児を対照とした HEIM scale を提案した。今回愛知県と愛媛県の2つの障害者乗馬施設で17名の自閉症児を対象としてHEIM score を求め分析した。分析からは、あるHEIM score を示す自閉症児が一定期間乗馬活動を続けるとHEIM
score がどれ程上昇するかを推測可能な結果が得られた。

調査施設
 愛知県レモンクラブ12名の自閉症児(半年から三年の経験)
 愛媛県野間馬ハイランド5名の自閉症児(1年の経験)

調査方法
 乗馬開始時(初期値);レモンクラブではインストラクターと母親が評価。母親が
わずかに低い評価をする傾向が見られた。インストラクターとの不一致項目を共同研
究者と協議しインストラクターが最終評価を行った。野間馬ハイランドではインスト
ラクターが評価した。2回目、3回目の評価はインストラクターがおこなった。評価
期間は月数で求めた。

結果と考察
 初期値(総得点)を縦軸に、対象児の年齢を横軸にグラフを描いた。17名の結果は広く分散し、年齢との相関は認められなかった。
 2回目、3回目の得点を縦軸に、対象児の年齢を横軸にグラフを重ねた。2回目以降の得点はグラフ上方の分散し、年齢との相関は認められなかった。自閉症は年齢と共に症状が軽減することがあるとされている。対象とした17名、3年以内の結果では個々人の症状のばらつきが大きく年齢による発達を明確に示すことはできなかった。
 レモンクラブの12名について、HEIM score を縦軸に、乗馬期間を横軸にしてグラフを描いたところ、初期値や評価期間が1人1人で様々であるにもかかわらず、グラフは右上がりの一定範囲(期待範囲)に収束する結果が得られた。期待範囲が右上が
りになっていることは、自閉症児が乗馬活動することでHEIM score が上昇することを期待させるものである。また、様々な HEIM score 初期値を持つ子どもたちの変化が期待範囲内に収束したことは、幅広い症状の有る自閉症児のほとんどが乗馬活動続けることでHEIM score 上昇することを期待できることを示している。野間馬ハイランドの5名の結果を同様にグラフ上に重ねたところ、すべて期待範囲内に収まった。初期値が40点を越す子どもらは期待範囲からはずれて右上がりの程度が低くなるが、これはHEIM scale が50点を最高値とすることが原因である。あらたな尺度を考案する必要がある。
 HEIM scale は自閉症診断基準の一つであるCARS を基に作られている。従ってHEIMscore の上昇は CARS score の上昇、すなわち自閉症症状の軽化が起こっていることを期待させるものである。乗馬を1年あるいは2年続けることで score がどれほど上昇するかを推測できるようになったことは、乗馬活動を療育あるいは治療の手段として利用できると納得するための第1歩である。


 

2004 HARs 学術大会
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