ストレンジシチュエーション法を用いた
ヒトと犬の愛着測定の試み
友永(外岡) 利佳子 別府 真衣子
(東海女子大学・岐阜県)
【目的】
本研究では、飼い主は犬をどのように捉えているか、そして犬は飼い主をどのように捉えているかについて「愛着」という心理学的側面から検討することを目的とする。
Keywords 犬(Canis Familiaris)・愛着・ストレンジシチュエーション法
【方法】
質問紙調査
飼い主は犬をどのような存在と捉えているのであろうか。Poreskyら(1988)は、「家族が少ない人、都市の居住者、離婚した人、独身者は犬への愛着度が高い」と報告している。また金児(2000)は男性の飼い主より女性の飼い主のほうがペットへの愛着が強いことを示した。本研究の質問紙調査では、飼い主や犬の属性(年齢・飼育年数・種など)に関するフェースシートを作成し、それに加えてペットに対する態度(「PAS」;1981)」、ヒトとペットとの関係(「CABS」;1987)およびペットに対する態度とペットとの関係(「PRS」)を一部変更した尺度を用い構成した。本研究の調査対象者は145名(男性51名、女性94名、平均年齢36.6歳)であった。
実験
幼児と母親の愛着を調べる方法として、Ainthworth(1979)が開発したストレンジシチエーション法をJ. Topal(1998)を参考に一部変更して実験を実施した。この方法は飼い主とストレンジャー(実験者)の入退出からなる7つのエピソードから構成されており、犬が飼い主との分離場面や再開場面でどのような反応をするかによって、愛着の質を分類するものである。実験時間は各披見個体につき14分であった。実験参加者(飼い主)は27名、被験個体は32頭(室内犬12頭、室外犬20頭、平均飼育年数5年9ヶ月)であった。実験は飼い主の住居において実施し、実験中ぬいぐるみのオモチャが犬の届く距離に置かれていた。行動の記録は、実験中のビデオ記録をもとに、10秒ごとの1-0サンプリング法を用いておこなった。分析の対象とした行動は、「ドア(または出て行った方向)を見る」「顔を見る」「とびつく」「服従のポーズをとる」「体を飼い主に寄せる」の5項目とした。
【結果】
質問紙調査
「PAS」、「CABS」、「PAS」のそれぞれについて、子どもの有無×飼い主の性別×飼育条件(室内犬・室外犬)の3要因の分散分析をおこなった。いずれの尺度においても、男性より女性のほうが、また室外犬より室内犬のほうが愛着得点が高かった。しかし家庭内の子どもの有無に関しては差が認められなかった。「CABS」においては性別と飼育条件の間に交互作用がみられ、室内犬を飼っている男性よりも、室内犬を飼っている女性のほうがより高い愛着をもっていることが示された。一方、室外犬においては男女の有意差は認められなかった。
実験
分析対象とした行動をもとに階層クラスター分析をおこなったところ、犬の行動は以下の5つのタイプに分類できた。@「安定型」(26頭):ストレンジャーよりも飼い主を安全基地としていた。A「準安定型」(2頭):飼い主、ストレンジャーに関係なく一緒にいるヒトと遊び、分離場面においても不安を示さなかった。B「ストレンジャー型」(1頭):飼い主よりもストレンジャーに興味を示し、飼い主がいる時でもストレンジャーの退出方向をじっと見ていた。C「興奮型」(1頭):飼い主、ストレンジャーの両者に対してもよく遊ぶが、常に落ち着きがなく、特にストレンジャーに「とびつく」行動が多くみられた。D「マイペース型」(2頭):ヒトの入退出に無関係な行動をとっていた。1頭はずっとオモチャに夢中であった。もう1頭は若い成賢であるにもかかわらずオモチャで誘っても遊びたがらず、そっぽを向いていた。品種による行動の差異は今回認めることができなかった。
【考察】
本研究の質問紙調査から、飼い主が女性のほうが男性よりも犬に対する愛着が高いこと、また室外犬よりも室内犬に対してのほうが犬への愛着度高いことが示された。飼い主の性別に関する前者の結果は、金子(2000)また藤崎(2000)の研究結果と一致している。飼育条件についての結果は、室内犬は接触時間が長いために家族の一員としての意識がヒトにとって高いこと、室外犬は接触時間がより短いこと、またヒトによる役割り期待が考えられる。今回は子どもの有無を20歳以下の子どもが家庭内にいる場合を有とし、それ以外を無として分析した。家庭内の子どもの年齢の基準をより厳密に分類した場合、結果は異なる可能性が残った。
ストレンジシチュエーション法を用いた実験では、「安定型」に分類された26頭は5つの行動カテゴリーすべてにおいて、ストレンジャーよりも飼い主への愛着を示した。安定型の犬は飼い主を安全の基地とみなしており、飼い主との分離場面では、飼い主の去った方向を見つめオモチャで遊ぶことをやめることが多かった。興味深いことに、「体を飼い主に寄せる」という行動に限っては、室内犬よりも室外犬のほうが統計的に有意に多いという結果が得られた。室外犬は、飼い主との空間的共有の時間が短いために、ストレンジャーの存在などの不安要素が存在する場合、自ら身体接触することによって「不安」または「甘え」を表わしているのではないかと考えられる。
本研究では、ヒト幼児に用いられる愛着の測定法を犬に応用し、その行動記録からクラスター分析を用いて愛着の定量的測定をおこなった。81.2%の被験個体が「安定型」に分類されたが、残りの約20%は計画当初の予想をはるかに越えたさまざまな反応をみせた。約8割の個体が「安定型」という割合が妥当であるかどうかは、今後個体数を増やし実験することによって明らかになるだろう。また品種による差も今後の検討課題といえる。
*本発表は第二発表者の卒業論文のデータをもとにおこなわれるものであることを付け加えておきたい。
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