3.21/22 ポスター C

三重県における猿害対策のためのGIS構築

野中 健一(地球研),鈴木 義久(三重県),田中 哲哉(バーテックスシステム)
真野 栄一(アルプス),戸田 春華(三重大学)


はじめに
 三重県では,2001年以降,猿害対策事業において,サルの位置情報の把握とその情報を住民や関心を持つ市民および研究者にむけて公開するためのシステムを作ってきた。これまでにも三重県では,電波発信機の装着と遠隔測定法によるサル群の位置把握を実施してきたが,これをさらに進めてサルの出現動態を容易に把握して発信し,それを関係者にわかりやすく示すことが必要であると考えた。次に猿害対策の実践に際して,サルの出没情報をリアルタイムで共有でき,市民レベルで手軽に扱える端末システムの開発を目指した。そのソフトは,可能な限り手軽で,可変的な対応ができること,そして容易に入手できるものであることが要件である。この条件にしたがって,2003年度には,汎用GISによるサル位置情報システムと,携帯電話とWeb-GISを用いたサル情報の発信と閲覧集積システムの2種を構築した。この報告では,後者のシステムを紹介し,住民が主体となり,さまざまな協働体制を築いていけるようなシステムの可能性を検討する。

サルの位置情報収集活動
 2001年度に,サルの群れのメスザルに電波発信器がつけられ,群れの動きを把握できるようになった。この電波をラジオテレメトリー法によって,受信することによって,サル(群)位置がわかるようになった。この情報を集めるために,2002年度より三重県の事業として調査員が雇用され,位置情報が集められたが,これは事業費と期間が限定されるため,2002年度,2003年度とも半年ほどの期間のデータ収集となった。その一方で,調査員経験者やサルに関心を持つ者によって,任意団体「サルどこネット」が構成され,そのメンバーによって,継続的に位置情報が集められるようになっている。

サル位置情報システム
 サル位置情報システムは,サルの位置情報の取得・発信,受信,情報の蓄積と分析からなる。このシステムを構築するために,情報の取得・発信では,日常生活の中での発見と報告を誰もが扱い得るよう容易に簡便にすること,情報の受信では,迅速に,かつ誰もが容易にその情報をわかりやすい形で得られることに主眼をおいた。システム構成としては,発信側は,GPS機能カメラ付携帯端末を用いた,位置(緯度経度)・画像(静止画および動画)・状況情報の取得と送信,その情報を位置情報として瞬時に共有,情報付加し蓄積できるサーバWeb-GISによる処理,ウェブサイトの活用によるサルの位置情報の発信と携帯電話およびパソコン上でウェブページによる閲覧,とした。このシステムによって,@不特定に移動するサルの群れ位置情報を簡便に発信し,データを共有すること,A携帯電話による情報の即時取得,B猿害情報の集積を行い,時系列等で整理して地図上に表示し,分析に供すること,が可能となった。

効果
 本システムによって,サル位置情報の,任意のスケールでのGIS地図上に明確なピンポイント表示,目視情報によるリアルタイムの状況付加,携帯電話による即時情報の伝達がきわめて容易になった。さらに,ウェブページで,データ蓄積による状況のこれまでの内容と変化が,サル群,地域,日時など目的に応じた形で,容易に加工して閲覧でき,このシステムが,利用者が個々の対応を考えるための対策支援ツールとして有効に働いている。さらに,このシステムに参加する者同士のコニュニケーションが高まっている。とくに,高齢者が社会的貢献を強く感じていること,サルに関するやりとり以外でも新たなコミュニケーションが作られるようになり,積極的に参加していることも評価できる。


 

2004 HARs 学術大会
演題一覧
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