3.21/22 ポスター A

学童児を対象とした介在動物における
犬種とその外貌に関する研究

内山 秀彦
(
麻布大学獣医学部 動物人間関係学研究室・神奈川県)


 動物介在療法(AAT)、活動(AAA)また教育(AAE)は広く知られるものとなってきている。これらの活動は種々の障害を持つ子供たち、高齢者さらには健常者に至るまで様々な形で行われ、また介在動物は馬、猫、イルカなど多岐にわたる。こうした動物の中でも犬は我々人との関係が古く、パートナーシップを結ぶ動物としてやはり注目された存在であり、最も一般的な介在動物であるといえる。しかしながら、種々の障害や様々な対象者、また様々な犬種がいる中で適切な犬種を選ぶことは非常に困難であり、現在は介在させる犬の気質やその行動面にのみ着目して適用させている。しかし、動物の“見た目”が人々に与える印象は大きなものであると考えられ、対象者に対しても視覚的な影響は強いものであると考えられる。また、こうした活動のプログラム構築や、適切な介在動物の選定において動物の外貌はその指標として注目するべきものである。

 そこで本研究では、特に犬の外貌に着目し、健常児に対してアンケート調査を行った。対象は小学校3、4年生の男女303名とし、解析は有効回答者の270名とした。このアンケートは犬の外貌を「サイズ」、「頭の形」、「被毛」、「毛色」、「耳の形」、「尾の形」の部位に分類し、それぞれに特徴的な形状を絵で示した。そして対象児は“やさしそうな犬になるように”それぞれの形状を選択させた。また、選んだ形状を組み合わせた犬の外貌を想像し、「その犬の性別」、「動物の飼育歴」、「どのくらい犬を好きか」、「犬から受けた嫌な経験」などを回答させた。それぞれの形状の選択の割合、さらにχ2検定を行いそれぞれの選択項目と対象児に関する回答との関連性や選択傾向などを調査した。

 選択割合による結果から、8〜9歳の健常児にとって“やさしい”と感じた犬の外貌は、身体のサイズが中または小型犬であり、毛の長さは短いものが好まれた。また、被毛色は茶と白であり、耳の形状はボタンイヤーであった。 さらに尾の形状はオッターテイルであり、頭の形は丸い形状または長い頭を持つものが高い割合で選択された。これらの形状を組み合わせると、子供たちが好み、また優しいと感じる外貌はレトリーバー種やテリア種に近似したものであることが示唆された。これらの犬種は日本においても非常に一般的なコンパニオンアニマルであり、子供たちの接触経験も多いことから、犬という概念にこれらの犬種が挙げられる可能性が考えられた。
 
  また興味深いことに、犬に嫌忌的な経験を持つ子供たちの回答は、比較的大きい身体サイズの犬を選ぶ傾向が見られた。種々の形態的特徴や回答をみたとき、子供たちの嫌忌的な経験はテリア種などの比較的小型な犬種から受けた可能性がある。このテリア種は元来、狩猟犬として活躍した犬種であり、気性が荒くまた機敏な動作をもつことが知られている。日本においても飼育頭数は多く、この犬種に対する接触の機会は多いと考えられる。また、具体的な経験内容を聞いたところ、噛まれた、追いかけられた、飛びかかられて舐められたといった回答が多く、見た目が小型で愛らしいことから不用意に近づいた結果、被害を被ったと推察される。こうした子供たちは、比較的大型な犬はおっとりしており、動作も緩慢である概念を持っているとも考えられる。一方で “どのくらい犬を好きか”という質問に対してそのような子供たちも68.3%は好きであると答え、さらに“犬から受けた嫌な経験”という自由回答形式の質問の中でも「嫌な思いをしたことはあるが、犬は好きである」と強調して答えた子供たちも多くみられ、強烈な恐怖感を得るには至っていない。したがって、これらのレトリーバー種やテリア種は、気質的な行動特性に留意することで子供を対象とした種々の活動における介在動物として適切であることが示唆された。

 

 

2004 HARs 学術大会
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