3.21/22 ポスター @

「障害者における乗馬体験が乗馬時の気分やウマの印象に及ぼす影響」

山田 弘司
(酪農学園大学 酪農学科・北海道
)他


【目的】
 身体障害者への理学療法として乗馬が有効であることが確認されてきた。身体障害には情緒障害も併発している場合が多く、そのような障害面での改善効果も期待されるようになってきた。北海道士幌高校では、1998年頃より乗馬による交流活動を行い、障害者を受け入れてきた。2003年度は受け入れ団体数が14団体、そのうち障害者は7団体であった。このように障害者乗馬活動は受け入れられてはいるが、心身への効果を検討する試みは行われてこなかった。そこで、本研究では、検討の第一段階として、乗馬の際に日常生活や日常的気分、ウマや乗馬に対する気分などを調査し、それが乗馬経験の有無により違いがあるかどうか分析した。

【方法】
 対象者は4団体、34名(男子27名、女子7名)であり、年齢は5歳から12歳までであった。自主的な症状の報告があった者は13名で、うちわけは自閉症または自閉症の傾向が5名、知的発達障害が5名、二分脊椎が1名、その他の心身の障害が2名であった。乗馬経験は、初めてが9名、2または3回目が15名、4回目以上が9名、不明が1名であった。参加者には事前に学校の先生を通して実験への参加の承諾を得ていて、乗馬当日にも再度承諾を確認した。
 乗馬に用いたウマはクォーターホース種の一頭(16歳)とポニー種の一頭(9歳)で、両者とも何度も障害者乗馬に用いられてきた。
 実験の手続きは、最初に質問紙に記入してもらい、次に1回目の血圧・心拍数を測定し、乗馬の後、2回目の血圧・心拍数の測定、質問紙の記入、最後に3回目の血圧・心拍数の測定を行った。質問内容は乗馬経験、障害の診断名、日常の行動習慣状況7項目、日常の気分5項目、乗馬前の気分5項目、ウマとイヌと自動車の印象それぞれ7項目、乗馬中の気分5項目などであった。回答方法は、日常の行動習慣状況、日常、乗馬前、乗馬中の気分は4段階評定法、ウマとイヌと自動車の印象は7段階のSD法を用いた。
 血圧・心拍数の測定には手首式血圧計を用い、座位で2回ずつ測定した。姿勢を維持できなかったり、手首が細いために測定できない場合には欠損値とした。
 乗馬の手順は、乗馬用ヘルメットを装着して、補助を受けながらウマにまたがり、手綱を引く1名と両脇に補助のため2名と共にパドックを1周した。

【結果】
 気分や印象などの評定値は、そのまま統計分析に用いた。
1.日常の気分を乗馬経験の有無により比較したところ、乗馬経験者の方が「泣きたい」気持ちが有意に低かった。
2.基本的生活習慣を乗馬経験により比較したところ、経験者の方がより「残さず食事し」「友達と積極的に遊ぶ」ことが分かった。
3.イヌや自動車と比較したウマの印象を乗馬経験で分けて比べたところ、経験者の方がウマのことを「やさしい」「きれい」「やわらかい」と評価していた。
4.乗馬経験により乗馬前の気分と乗馬中の気分の変化を比較したところ、未経験者は経験者に比べて、乗馬の前は不安が大きく、楽しくなく、いらいらしていて、緊張して、退屈していたが、そのうち楽しい気分といらいらした気分は、乗馬中には経験者と同じ水準に変化した。
5.血圧値と心拍数については、欠損値が多いため、乗馬経験の有無による違いは分析できなかったが、全体としては心拍数、血圧とも乗馬前は高く、乗馬後次第に低下する傾向がうかがえた。

【考察】
 乗馬を一度でも経験すると、ウマの印象がよりよくなり、乗馬を前にしても緊張せず、乗馬中も楽しめるようになることが分かった。日常の生活習慣や日常の気分も乗馬経験者ではよりよいことから、乗馬が日常的な気分・行動を改善する可能性がうかがえた。今後、生体反応の面からの効果の検討と、効果の長期的フォローアップ調査を行いたい。

 

2004 HARs 学術大会
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