3.22 一般口演 K

動物愛護センターでのふれあい活動における
イヌの行動的・生理的ストレス反応

犬竹 順子1) 斉藤 富士雄2) 植竹 勝治1) 江口 祐輔1) 田中 智夫1)

( 1)麻布大学獣医学部動物行動管理学研究室・神奈川県
)
( 2)長野県動物愛護センターハローアニマル・長野県
)


【目的】
 近年、動物介在活動の活動範囲や活動場所は多岐に渡り、動物とのふれあい活動が各地でみられるようになっている。しかし、そのふれあいが不特定多数の人によって行われる場合、動物が何らかのストレスを受けているという可能性は否定できない。動物にとってよりストレスの少ないふれあいを行うためには、活動内容や時間など様々な側面からその要因を明らかにし、改善していく必要があると考えられる。そこで本研究では、動物介在活動に供されるイヌのストレス反応を明らかにするため、動物愛護センターでのふれあい活動における、イヌの行動と尿中カテコールアミン濃度を測定した。

【材料および方法】
 供試犬として、動物愛護センターに保護されている成犬6頭(小型雑種2頭、シーズー1頭、中型雑種1頭、シェットランドシープドッグ1頭、ラブラドールレトリーバー1頭)を選定した。ふれあい活動中にビデオ撮影した映像から、ストレス徴候を示すと考えられる行動(あくび、鼻なめ、肢あげ、拒否、あえぎ)のバウト数と総持続時間を測定した。休館日翌日の朝(最もイヌがおちついた状態)、ふれあい活動日の朝、ふれあい活動前、ふれあい活動後に尿を採取し、尿中カテコールアミン(ノルエピネフリン、エピネフリン、ドーパミン)濃度を測定した。それらを、イヌの体格(小型犬、中・大型犬)、活動日(平日、休日)、活動時間帯(10:20〜10:50,13:00〜13:30,14:45〜15:15)の各要因の水準間で比較した。

【結果および考察】
 行動解析では、ふれあい活動後のあえぎが中・大型犬で有意(P<0.01)に多くみられ、その持続時間も長くなる傾向(P<0.10)がみられた。これは、活動中に小型犬はなでられることが多いのに対して、中・大型犬3頭のうち2頭がボール遊びやジャンプなど動きの大きい活動をしていたため、体内熱産生量が多かったものと考えられる。活動日では、ふれあい活動中の鼻なめとあえぎが、休日に有意(それぞれP<0.001、P<0.05)に多くみられた。また、活動時間帯では、ふれあい活動中の鼻なめが、14:45?15:15の活動時間帯に有意(P<0.05)に多くみられた。休日や午後の時間帯は、平日や午前中に比べると、ふれあい活動に集まる人数が多く、活動中に犬が触れられる頻度も多くなることから、イヌがよりストレスを感じていたものと考えられる。
 尿解析では、尿採取の時期によって尿中カテコールアミン濃度に差はみられなかった。体格による比較では、小型犬の方が中・大型犬に比べて、エピネフリン濃度が高くなる傾向(P<0.10)がみられた。これは小型犬の活動中に触れられる頻度が中・大型犬よりも多かったことに関係すると考えられる。子供の来館者は、中・大型犬に比べて小型犬への恐怖感が少ないとみられ、結果として小型犬とふれあう人数が増えたことも一因として考えられる。活動日と活動時間帯については、尿中カテコールアミン濃度に違いがみられなかった。
 以上のように、行動解析の結果から、ふれあい活動におけるイヌのストレス反応は、その体格と活動日および活動時間帯によって異なり、それはイヌの活動量や活動時間の長さならびにふれあう人数の違いによることが示唆された。しかしながら、尿解析の結果から個体差などの影響が示唆されたことから、今後さらなる調査が必要である。

 

2004 HARs 学術大会
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