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はじめてイヌを飼う飼い主にとってトレーナーが及ぼす飼い主とイヌへの影響「その罪と罰」 中村 多恵 昨今のペットブーム、特にイヌに関していえば、イヌをはじめて飼う飼い主にとってしつけ教室に参加することや個人的にレッスンを受けることは心強いものである。 イヌのしつけでよくいわれることは人間の子育てと同じで、子育てが上手い人(親)はイヌを育てることも上手であるというが誰もはじめから親に「なる」のではなく悩み、苦しみ、楽しみながら親に「なっていく」と同じではじめてイヌを飼う飼い主も、悩み、苦しみ、楽しみながら飼い主に「なっていく」のである。 ただヒトのしつけとイヌのしつけの大きな違いは言葉を話すか、話さないかである。 ヒトの場合は共通の言語を通してある年齢にいけばその時の感情、例えば「楽しい、嬉しい、怖い」など子供がどう感じているか理解できるがイヌの場合は体全体の様子、顔の表情、尾の状態、声、時にはその前後の状態、といったあらゆる面で判断する必要がある。こういった事柄を理解してプロのトレーナーは飼い主さんにしつけを指導していることが多いはずなのだが中にはその行動だけを見てイヌの性格を判断して飼い主に告げてしまう例もかなりある。具体的には大型犬をメインにしつけを指導しているトレーナーが小型犬をしつける場合、叱り方一つにしても人によってはかなり迫力ある叱り方をするが同じように小型犬にした場合はそのイヌによっては恐怖心を抱きそれが転じて攻撃的な態度を見せ、トレーナーはこのイヌは「攻撃的である」とか「リーダーになろうとしている」など飼い主に言えば、飼い主はプロが言えば納得せざるを得なくなり時には体罰を用いてしつける(小型犬なのに)こともある。その結果何が起きるかと言えば、人間嫌い、人間不信の犬になったケースをいくつも見てきた。 こういった場合、飼い主もイヌも精神的に非常に傷ついている。 飼い主は自責の念と将来の不安、イヌは極度の臆病になり楽しいはずの散歩すらできない。 新たに依頼されたトレーナーはどうすべきか。 先ずは飼い主のこれまでの話を聞き非難めいた言葉は一切出さず聞く。これまでの経緯や普段の生活あらゆることを聞くその中で少しでもイヌの良い点があったらほめてあげる。時には冗談を交えてリラックスして話してもらうことによってその後の「リハビリ」のヒントが隠されていることもある。飼い主にもイヌにも無理をさせずに新たなレッスンのメニューを組んでいく。 イヌのトレーナーを仕事をする人間はイヌが好きであることは当たり前であると同じに他人、「人間」が好きであることも忘れてはならない。行動学を学ぶことは勿論大事だが人間の心理を学ぶこともこれからは必要な時代になっているのではないだろうか。
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2004 HARs 学術大会 |