3.22 一般口演 F

心身症の子供達と共に
−長野県動物愛護センターの取り組み−

松沢 淑美 藤沢 英一 藤森 令司 小林 雅巳 川村 昭道 今村 睦
大木 正行  金井 真佐三 小林 文範 上原 利三雄 丑山 隆雄

(長野県動物愛護センター・長野県
)


1 はじめに
当施設では、平成12年4月開設以来、動物への優しい気持ちを育み、正しい飼い方を学んでもらうことを目的に、幼児・小学生等を対象とした「動物ふれあい教室」及び中学生・高校生等を対象とした「職場体験学習」の受け入れをしている。更に不登校児童生徒の受け入れも実施している。その子供達は何らかの身体症状を呈して登校できなくなっており、心身症と診断された子供もいる。受け入れには子供個人に応じた対応が必要となる。
今回、子供達に対する受け入れプログラムを検討し実施したので報告する。

2 方 法
本人との面接の際、施設内の動物との接し方を観察し、必要に応じて専門家の助言を得ながら受け入れプログラムを検討した。本人の希望を重視し、症状に応じた体験内容の設定及び動物の選択を行った。

(1) 事例1:小学4年生男子、場面かん黙、昼夜逆転、不登校。学校内の心の相談員同伴で定期的に来館し、施設内で飼養している動物の世話を体験。犬が本人の発語に反応するように促すことによって発語を誘発した。

(2) 事例2:小学6年生女子、強迫神経症、分離不安、学校内情緒障害学級に親同伴で登校。親同伴で定期的に来館し、施設内で飼養している動物の世話を体験。犬に対する恐怖があったため、導入は小動物の世話を行い、小型犬の世話へとステップアップ。ひとりで体験に熱中できるよう環境設定した。

(3) 事例3:中学3年生女子、強迫神経症(対人恐怖、不潔恐怖)、保健室登校。カウンセラーからの紹介及び精神科医の薦めにより、親同伴で当施設に来館。症状に応じた体験内容を専門家の助言を得ながら検討し実践した。

3 成 績
(1) 事例1:当施設来館を楽しみに朝起きるようになり、犬が自分の言葉にきちんと反応することから徐々に自信を持ち発語がみられた。

(2) 事例2:犬のしつけ方を学び、自分一人で自信を持って行動できるようになった。夢中になって取り組むため神経症状が発現せず、そのことが更なる自信につながりステップアップが進んだ。

(3) 事例3:障害を持った犬や社会性の低い犬に対して、自分との同一化・退行及び語りかけ等が見られた。不潔恐怖への不安から当初触れなかった犬にも触れるようになった。スタッフとの交流及びボランティア活動を通じて社会との接点が持てた。自分が必要とされているという実感を得ることができた。

4 考 察
当施設は、不登校児童生徒の一時休憩場所としての役割があり、エネルギーが溜まると学校に登校するといった事例もある。そして、当施設が当事者本人にとって安心できる居場所であり緊張せずに好きなことに集中できる場所であることが重要である。ひとりひとりに合ったペースで過ごし、動物との信頼関係と自分を認めてもらえる体験ができ、現実的なことに打ち込み楽しく体を動かすことができる場所であることが求められる。
心身症の子供達には、個々の症状に応じた対応が必要であり、体験内容の設定と動物の選択には細心の注意が必要である。けして子供達を「異常」と捉えることなく、本人が肯定的感情を得られるよう配慮することが重要である。さらに、治療効果を期待するあまり本人に過剰な負荷をかけないよう心がけなければならない。本人の緊張緩和を目的に、″こだわり″への対応や周囲を気にせず好きなことに熱中できるための環境設定も重要と考える。

5 まとめ
今回、心身症の子供達のための受け入れプログラムの指標を作成できたことは有意義であった。
当施設では、不特定多数の人とのふれあいを目的とした使役犬の適性診断と育成・トレーニングを日常的に実施している。それらの犬は、心身症の子供達の対象としても非常に適していた。一方適性のない個体でも、ある子供には最適な使役犬としての役割を果たしたケースがあり、犬の多様性を認めた動物介在事業が行える当施設の存在価値は大きいと考える。
これら事業は、個人に応じたきめ細かな対応と長期的な関わりが必要である。今回の取り組みは、難しい課題ではあるが、社会的要求度は益々高まると考えられることから、今後も関係機関と連携をとり専門家の助言を得ながら実施していきたい。

 

2004 HARs 学術大会
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