3.22 一般口演 E

陰部神経痛に対してAATを試みた1症例

高野 正博
(大腸肛門病センター高野病院・熊本県
)


[目的]
陰部神経痛は腰仙椎骨・軟骨の病変により陰部神経が損傷され、そのために起こる会陰部の疼痛である。病態が未だ十分解明されていないため、その診断と治療法が確立しておらず患者さんを大変苦しめている。これに対して動物好きの患者さんにAATを応用して疼痛と精神的苦しみを軽減させる援助の試みを行ったので報告する。

[症例]

患者は55歳男性。腰痛、排便障害で来院され、左側の尾骨に沿って陰部神経の圧痛が強度であった。そこで平成15年5月30日入院のうえ神経ブロック、近赤外線療法、鍼灸を組み合せて行い、内服としてVB12、膀胱機能改善剤の投与を行った。痛みの程度は、痛みのスコアを0から5とすると、左側が2.5(少し痛いが我慢できる)、右側が3.5(痛いが我慢できる)で、痛みのために便座に座ったり立ったりが出来なかった。平成15年6月14日疼痛の改善が治療によっても著明でないということで精神的に落込みがみられ、その援助を目的に痛み日記の記入とAATを始めた。

[方法]
「痛み問診」をとり、毎日「痛み日記」に午前・午後・夕食前・夜間の痛みの度合いを0から5のペインスコアで記してもらい、どんな時に痛いかや一日の感想も自由に書いてもらった。患者さんは昔シーズーを飼っており犬が好きだということでAAT併用の同意書をとり毎週水曜日の午後約1時間動物とふれあってもらった。ふれあい終了後は別にアンケートを渡し、ふれあう直前、直後、15分後、30分後、1時間後で痛みの程度を0から5のペインスコアに記してもらった。また、脳波測定器「リラクゼーションシステム/プラス・アルファEEG-2000A(潟Aポロメック)」を使って動物とふれあう直前と直後に10分間α波とβ波の測定を試みた。AATは7月2日〜8月末まで計9回行った。動物はJAHA認可の動物のコリー犬1、コーギー1、ヒマラヤン1で、場所は病院内の「人と動物のふれあいハウス」で行った。

[結果]
患者は「痛み日記」を積極的に毎日か欠かさずつけ、精神的なことなどについてもいろいろと感想を書いていた。これによって痛みに関しても客観的に見ることが出来るようになり、治療と共に精神的にもコントロール出来るようになってきた。現在は足のしびれは残っているものの、寝返り困難以外は左側がペインスコアで2、右側が3と軽減し安定している。動物とのふれあい後には、ペインスコア2.5が直後で2と低下するが、1時間後に痛みはもとに戻った。AATに関する感想では「心がなごむ」「遊んでいる時は痛くても苦にならない気がする」など、最後の方では「今日は今までとは違う何かを感じた」などと書かれていた。脳波はリラックスの指標としてα波を観察できないかと思ったが、この装置では困難であった。

[まとめ]
動物とのふれあいで、痛みに対しては継続的効果はないが少なくとも一時的な効果がある。痛みや苦しみ、自分を客観的にみつめ、感情的にならず、他の治療に対しても積極的な態度を示せるようになるなどかなりの精神的効果もある。患者は、痛みは痛みとして認め自信がつき9月始めに退院した。今回、痛み日記と動物とのふれあいを併用することで、患者に精神的に落ち着きが見られるようになった。AATの即効的鎮痛効果に加えて、永続的な安らぎが得られることを強調したい。脳波については装置を検討し改めて試みたい。


2004 HARs 学術大会
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