ペットビジネスは、人に対しても優しいか?
― ペット系専門学校に寄せられる求人票から ―
福岡 今日一
(同志社大学大学院総合政策科学研究科・京都府)
T はじめに
止まることを知らないペットの社会進出を受けて、ペットビジネスは動物取扱業(販売、保管、貸出、訓練、展示)、動物病院、ペットフード・用品流通業だけでなく、人に対するビジネスの数だけ存在すると言われ、新たなビジネスチャンスを求めて、不況に喘ぐ異業種企業の参入が相次いでいる。ペットビジネスには、そのサービスの対象が自分たちと同じ人間ではなく、他の生態・生理を持つ動物であることから、特別な知識や豊富な経験を持つ人材が不可欠である。有能な人材の確保こそが、ペットビジネスの成功の可否を握るといって過言ではない。事実、有能な人材の普及と社会全体の動物愛護・福祉への関心の高まりから、ペットビジネスの現場におけるペット生体の飼育環境は改善の兆候が見られている。しかし、飼育環境に注目が集まる一方で、3K(キツイ、キタナイ、キケン)職場であろうと想像されるペットビジネスの現場での労働環境は、全く問題視されていない。
そこで、本口演では、国民の最大の関心事といえる年金改革を受けて、ペット系専門学校に寄せられる求人票から、動物病院やペットショップといったペットビジネスの社会保険加入状況を調査した結果と、ペットビジネスでの職場実習を行った専門学校生に対する聞き取り調査の結果を報告する。
U 調査の方法
求人票調査
@)調査対象:ペット系専門学校に寄せられた求人票 497社(個人を含む)
A)調査時期:2004年1月
B)調査項目:営業職種、会社組織、従業員数、社会保険加入状況など
聞き取り調査
@)調査対象:ペットビジネス(動物病院、ペットショップなど)で職場実習を行った専門学校生 71人
(有効回答数 68人)
A)調査時期:2002年7月
B)調査内容:愛護精神、拝金主義、診療(販売)時の説明、他のペットショップとの関係など
V 結果と考察
ペット系専門学校に寄せられた497社(個人を含む)の求人票の調査結果(単位:社)は、業種別では、動物病院 321、ペットショップ(ペットサロンを含む)
107、テーマパーク 19、卸・メーカー 25、その他 25であった。組織別では、個人 112、会社組織 207、無記入 178であり、従業員数では、2人以下
83、3‐5人 149、6‐10人 92、11人以上 95、無記入 78であった。社会保険の加入状況は、完備(年金、健保、雇用、労災) 158、労災・雇用のみ
162、その他 43、無加入(未記載を含む)134であった。
ペットビジネスの中核を占める動物病院、ペットショップは、従業員5人以下の経営が多く、その経営基盤は極めて脆弱なものであることから、事業主負担の大きい厚生年金や健康保険だけでなく、雇用保険や労災保険にも加入していないものが多かった。本来、社会保険の事業主負担は、人を雇用するものの義務であり、従業員に対する最低限度の福利厚生のはずである。従業員の定着率の低さを理由とした社会保険への未加入という前近代的な経営では、事業の発展は望めない。ペットビジネスの発展が、人と動物のより良い共生関係の実現に寄与することは言うまでもないことからも、ペットビジネスで働く従業員の福利厚生の充実が求められる。
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