ヒトと動物の関係学会(HARs)

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月例会報告

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第30回月例会 緊急シンポジウム
『イルカセラピーを考える-その可能性と限界-』

○ 開催目的とその経緯
 イルカ介在療法の歴史はまだ20年余である。イルカ介在療法のパイオニアとして知られるベッツィ・スミス(Betsy A.Smith)が健常者と精神障害者に対するイルカの対応に違いがあることを発見し、1978年にアメリカのフロリダ州で心身発達障害児を対象に初めてイルカ介在療法の研究を行った。その結果、子どもたちの行動、感情、および言語発達面で好ましい変化が認められた。
動物のもつ「癒し(Healing)」効果は近年注目されている。日本においてもさまざまな動物(犬、猫、馬、イルカ)における動物介在療法(Animal Assisted Therapy)が広く紹介されるようになってきた。この動物介在療法は人の身体的、精神的疾病に対し、明らかな治療効果があるとされ、米国やヨーロッパの先進国では積極的に行われている。しかし、日本では動物に対する社会的な認識不足などさまざまな事情によって著しく普及が遅れている。
特にイルカは、Betsy.Smith博士がイルカセラピーから手を引いた理由にあるように、野生動物であることの倫理的な問題、イルカの管理維持に莫大な経費がかかること、その効果ははっきりしていないこと、などを含めて数多くの問題がある。それらを乗り越えて、我々がイルカセラピーをする上で何を考えていかなければならないのか、皆でとことん議論する必要がある。

○ パネリストの紹介

中村 和彦 (浜松医科大学講師 ・ 児童精神科医)
辻井 正次 (中京大学社会学部助教授 ・ 臨床心理士)
和田 新平 (日本獣医畜産大学 獣医畜産学科 ・ 獣医師)
浅木 裕志 (株式会社アスクジャパン代表取締役 ・ 獣医師)
   
座長  
太田 光明 (麻布大学獣医学部教授 ・ 獣医師)
 
>>> 会場の様子

○ シンポジウムの模様
 パネリストに左記の、中村和彦氏(浜松医科大学)の、辻井正次氏(中京大学)、和田新平氏(日本獣医畜産大学)、 浅木裕志氏(株式会社アスクジャパン)の4名を迎え、現在イルカセラピーにたずさわるさまざまな分野から講演が行なわれた。会場には約100名近くの人が参加し、用意された席は埋まるほどで、入り口で立って聴講する姿もみられた。参加者は、各分野の専門家(臨床心理士、作業療法士)やさぬき市地元の人々など多様であった。パネリストによる講演後は来聴者からの質疑応答が行われ、多くの議論が交わされた。


>>> 質疑応答

Information
・開催日時  2002/ 8/25 (Sun)
13:30〜16:00
・開催場所  津田町保健センター
  〒769-2401
香川県さぬき市津田町津田915-1
・参加費   無料

 

Program
13:30〜前半の部
1. 司会(太田光明教授)あいさつ
2. 津田町代表者 あいさつ
3. 浜松医科大学講師・児童精神科医 中村和彦氏 講演
4. 中京大学社会学部助教授 辻井正次氏 講演
5. 日本獣医畜産大学講師・獣医師 和田新平氏 講演
6. 株式会社アスクジャパン代表取締役・獣医師 浅木裕志氏 講演
休憩
15:40〜後半の部
7. 質疑応答
8. 総括(各パネリストまとめ)


書籍展示

関連書籍

パネリスト

○ 各パネリスト演題
−イントロダクション− 太田光明教授
 動物が、ヒトの健康に有用であると科学的に実証されているが、それはペットから得たデータであり、イルカに関する科学的なデータはほとんどない。イルカセラピーのキーワードは「未知の魅力(能力)」、「無限の可能性」の二つと考える。
ベッツィー・スミスは、9年前にイルカセラピーの研究から完全に手を引いた。そのときの教訓がある。その一つは、捕獲イルカ(野生動物)を用いる倫理的な問題。二つ目は、飼育管理に必要な莫大な経費(犬、馬などに比べ)、三つ目に、効果が科学的にあきらかでないといったことである。
こういった背景を念頭において、この後の話を聞いてもらいたい。



1. 浜松医科大学講師・児童精神科医 中村和彦氏

「イルカセラピーにおける今までの研究について,医学的立場から」

 今までイルカセラピーに関する研究を調べているが、論文検索(medline)中でもそれに関する文献は数件ほどしかない。さらに日本の文献はほとんどない。論文の分野においても医学面の雑誌ではアニマルセラピーはみられない。今後は獣医学と医学が連携した系統だった臨床研究が必要と考える。


2. 中京大学社会学部助教授 辻井正次氏

「自閉症の発達支援の中でのイルカ介在療法の可能性」

 自閉症に関して、まだ一般の人々の中で誤解されていることが多々ある。また、臨床家の中でも自閉症概念の学説の不幸な変遷によって世代間、地域間での差異はまだ残っており問題があるのが現状である。自閉症の基本障害について理解することが必要である。自閉症児に対してイルカ介在療法をおこなった場合、一つのタイプの介入だけでの効果があるないと言うのは間違いであり、発達支援の中においてどう位置づけていくかが重要である。また、ベッツィー・スミスの過去の研究にも現在の自閉症に対する考えや発達支援技法も大きく異なり、進歩しており、イルカ介在療法だけでの効果を評価することの意義は研究目的だけのものと考える。イルカとの関わりの意義は、初めての新しい体験をする、海の中でイルカと一緒にいること、リラックスして楽しく泳ぐ、セラピストと関わりが大きい、といったことが上げられる。個別の発達支援プログラムの中でのイルカ介在療法の意義は、関わりやコミュニケーション、身体的な向上など複雑なものを短時間に行えることである。



3. 日本獣医畜産大学講師・獣医師 和田新平氏

 水生獣医学(aquatic medicine)の自閉症児の親であるといった二つの立場からの話をしたい。
獣医の立場からすると、イルカが楽しむことを考えていきたいと思う。イルカは群れで認識する動物であり、将来的には群れ(野生のイルカ)を対象にセッションを期待する。
自閉症児の親としても立場として感じたことは、日本には自閉症の専門家がおらず、理解がないことであった。今後は、イルカ介在療法に科学的なデータを出してもらいたいし、子どもがそれに協力してもかまわないと思うが、今までさまざまな体験をしてきていることで、それを評価する目はシビアであるので、それらにかかわる人はしっかり取り組みをすることを期待する。



4. 株式会社アスクジャパン代表取締役・獣医師 浅木裕志氏

「香川県さぬき市イルカふれあい活動の報告」

 現在さぬき市でイルカふれあい活動を行っている。イルカ介在活動の主な目的は、基礎データの調査・研究と人とイルカの共生を目指した調査・研究と考える。現在の調査では、イルカとのふれあい前後に、血圧、心拍数の測定、アンケート調査、セッション中の日誌記録、ふれあいの記録の項目について調査している。ある一例報告では、3セッション進めるにつれ、イルカに慣れ、触ったり、一緒に泳いだりすることがスムーズになり、笑顔をみせるようになった。今後ふれあい活動を続け、科学的なデータを解析していきたいと考えている。


 

○質疑応答

1. Q.イルカが2頭に1頭死んでいるという実状について。野生のイルカを活用するあるいはリリースすることについてどう考えるか?また、イルカを飼育する事に関してはどう考えるか。
  A.浅木氏
イルカのリリースを子どもの教育の一環としてとらえることができる。イルカ事業は行政がやる必要があり、家畜化など野生イルカを捕らない方向を考えなければならない。
  A.和田氏
野生のイルカとのふれあいが理想でだが、10年と長いスパンで考える必要がある。
   
2. Q.イルカセラピーは動物の特性利用して行うものか?ヒトなどに代替できないものなのか?
  A.太田氏
犬、馬など効果が違うことははっきりしている。イルカも特性を考えなければならない。水に入る、イルカと泳ぐ、非科学的ではあるが、音を出していることの未知の部分もある。
   
3. Q.イルカの種類、頭数、年齢、性別について。
  A.浅木氏
バンドウイルカ2頭で、若齢の雄雌。種類によっても性格は違う。
   
4. Q.日間賀島と津田町のイルカ介在活動の場の違いについて。
  A.中村氏
日間賀島は、湾の海水浴場で、水に入らなければイルカに触ることはできない。津田は生け簀から一部段差を設け、その浅瀬からもイルカにふれることができる。
  A.辻井氏
別のイルカを用いている。
   
5.

Q.野生のイルカはなぜよいか?(太田氏)

  A.和田氏
イルカは群れであり、群れの認識をもつ。自閉症の家族も群れであるため、群れどおしのふれあいである。
  A.太田氏
日間賀島では野生に近い状態で、今の生け簀飼育はそうではないといった、野生と野生でない(人がコントロールした)という比較が可能である。
   
6. Q.対象を自閉症と絞ることは問題では?健常者、年長者などに対してどう考えるか?海の環境(自然)の効果について。
  A.浅木氏
現在自閉症だけに絞っている訳ではなく、健常者に対してもイルカに癒されてもらいたいと思っている。
  A.辻井氏
年齢よりは、言語面で効果があるように思う。
  A.太田氏
水に入ること(水着に着替えること)を嫌がらなければ、年齢は関係ない。
   
7. Q.動物福祉の観点から、イルカのストレスについて規約のようなものがあるのか?
  A.浅木氏
5年間ハズバンダリーでの採血で血中コルチゾール濃度の調査をしたところ、慣れが影響していた。喜びの物質を証明することが必要ではないか?この種の事業はイルカ喜んでいなければ成り立たないと考える。
  A.太田氏
新規物に対する反応がよい。環境適応が早いと言える。諦めがよいという言葉があてはまる。こういった点からも彼らの環境をしっかり考える必要がある。
   
8. Q.イルカセラピーの言語以外のチャンネルがあるのでは?保護者を交えて行うことについて、なぜ非日常の驚きにイルカであるのか?
  A.辻井氏
何が大事かターゲットにするのかによって変わる。

 

○まとめとして

 今回のシンポジウムは、約1時間半という限られた時間の中だけで、まだまだ残された問題や疑問は数多く、議論は尽きない。今後のイルカセラピーを目指す上で、一つの分野だけでなくさまざまな分野間の意見交換は重要である。今回初めて相互の意見交換の場として開催されたことは、大変貴重なものであったように思う。


 
     
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