月例会報告
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ヒトと動物の関係学会 秋季シンポジウム・第112回 例会
『尾道市旧市街地に生きる動物とヒトとの共生を考える』 |
時 間: |
2016年11月26日・11月27日(2日間) |
場 所: |
尾道市旧市街地・妙宣寺本堂(広島県尾道市長江1丁目4−3) |
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本シンポジウムは、例年京都大阪で行われてきた「ヒトと動物の関係学会関西シンポジウム」を「秋季シンポジウム」とし様々な会場で行うことを趣旨とした第一弾のシンポジウムである。今回は広島県尾道市を舞台に、1日目尾道の野良猫をめぐるスタディーツアー、2日目「尾道に生きる動物とヒトの共生について考える」シンポジウムが実施された。
尾道市はここのところ観光客で賑わっているが、その一つには“野良猫”の存在もある。猫の街・尾道、マスメディアやYouTubeといった媒体を通してこうした認識が生まれてきたようである。しかし、地元民、観光客と猫たちとの共生については様々な陽と陰の問題が存在する。尾道という箱庭的土地のなかで抱えるヒトと動物たちとの関係について、5年にわたり野良猫の研究を行ってきた広島大学のコーディネートと今回のシンポジウムの趣旨を聞き快くお引き受けいただいた妙宣寺のご住職のお力添えで実現したシンポジウムである。
1日目「尾道の旧市街地のネコと風景をめぐるStudyツアー」
平成28年11月26日、1日目は尾道市旧市街地の山手地区を巡るスタディーツアー、尾道市における猫との関わりを実際に触れながら探っていった。ツアー参加者は30名を超え、非常に賑やかに行われた。13:00にJR尾道駅に集合した後、ツアーコーディネーターの谷田創先生(広島大学大学院)の挨拶からはじまり、猫関連の商品が多く見受けられる商店街のアーケード通りを抜け、ロープウェイで千光寺山の山頂に向かった。山頂にはいくつかの猫のモニュメントが見受けられ、猫がこの地域に深く根付いていることが実地に理解することができた。
次いで、猫がよく昼寝をしに訪れるという尾道市立美術館に向かった。この美術館はスタッフの方々も猫を大切にしているが、実際に猫はいなかったものの、館長のはからいもあり実際の糞尿被害も見ることができた。一方、共楽園に移動すると多くの野良猫を観察することができた。多くの観光客も見られ、野良猫たちは人慣れし、触ることが容易な個体も多々存在した。ここで谷田先生と妹尾氏による共楽園に住み着く猫の現状、尾道市における野良猫の位置付けや、糞尿問題、野犬問題、これから取り組むべき課題についてお話頂いた。そして複数の給餌スポットを観察や、広島大学が取組む猫の糞尿被害対策の為に設置している犬小屋型の猫公衆トイレの説明もあり、また移動中も道の片隅で休む野良猫の姿が要所で確認でき、山手地区の猫の数には驚愕するばかりであった。無責任な餌やりからの糞被害、そして飼い猫も車に轢かれないので外飼い→餌やり→交配→多数の猫の存在による捨て猫の増加といった負の循環は、尾道が解決すべき際めて重要な動物との共生問題であることをまざまざと実感するツアーとなった。
2日目「尾道に生きる動物とヒトの共生について考える」 シンポジウム
11月27日9時、あいにくの雨天ではあったものの妙宣寺の境内に集合し開始されたシンポジウムは、参加者が90名と関心の高さが伺われた。広島大学大学院の谷田創先生の趣旨説明にはじまり、「尾道の野良ネコの歴史的変遷」として園山春二氏 (尾道イーハトーヴ代表)、そして「尾道の野良ネコの現状」として第一線で研究を続けてきた妹尾あいら氏(広島大学大学院生)、そして「広島県動物愛護センターの役割」として冨永健氏(広島県動物愛護センター)、さらに「広島市の高齢者施設における保護犬の活用」として西川直美(広島アニマルケア専門学校 教員)とご発表が続いた。広島大学の調査によって明らかとなったことは、野良猫に癒やしを求める観光客が殺到→野良猫の観光資源化といった陽の部分、一方で、野良猫への不適切な餌やりによる糞尿被害、置き餌の腐敗による悪臭、野良猫たちの疾病と人獣共通感染症の危険性といった陰の部分である。そして野良猫たちの福祉的観点も大きな争点となる。妹尾あいら氏のご発表では、学術的な観点から尾道の野良猫の飼育頭数と現状と行ってきた対策について報告された。猫の総数は大きく変化することはなく、去勢避妊をしている割合も少ない、そして直接観察による個体識別によれば、2年もすれば同一個体の観察割合は激減することから、野良猫たちにとって環境は過酷であるということは間違いないとのことであった(妹尾氏のご発表内容は学会誌でも論文として掲載されており、是非ご参照いただきたい)。
昼食休憩時には広島アニマルケア専門学校による保護犬の訓練のデモンストレーションやピアノのライブ演奏など盛りだくさんな内容であった。午後からは、ヤマザキ学園大学の山崎薫学長のご発表「動物愛護法の視点から動物とヒトとの共生を考える」では、動物愛護に関わる現状と歴史的変遷も含めてまとめられた。そしてパネルディスカッションを迎え、ご発表者の先生方そしてフロアーからのご意見がまとめられた。ここで、特筆すべきは、尾道市は野良猫の存在を観光資源としては認めていないというである。そして地域猫活動は過程であって目的ではなく、あくまでも猫という家畜動物の特性も含めて考えれば終生飼育が可能な飼い主を見つけて野良猫を無くすことが重要であるという谷田先生のご提言である。人慣れした個体としていない個体とを分けて考え、避妊去勢、獣医学的検査を得た里親支援ならびにマイクロチップによる地域猫化といった具体案が示された。動物をめぐる考え方はその倫理観も含め人それぞれである。解決すべき動物との共生問題は、生命の尊厳を考える時、目的は同じであるのにもかかわらず妙な対立も起こりうる状況になり得る。人と人との繋がり、地域の人々同士の繋がり、意見を一同に交わす会合の重要性で結論を迎えた。今後いっそうの努力が求められるものの、行政・市民・地域の一体が問題解決へと向かう姿勢の強化が大切であることを認識させられ、社会学、そして動物観も絡んだ非常に内容の濃いシンポジウムであった。「猫の存在を挟んだ人同士の繋がり」まさにヒトと動物の関係学の基盤は“人と人との関係”であるということを共感し合える会になったと思う。広島県における動物の殺処分数は数年前のワーストから劇的に減少し、事故等でやむなく安楽死もあるものの、ゼロになった。尾道の野良猫という舞台は、広島大学の調査研究による具体案から、市民そして行政が解決に向けて前向きな姿勢を示している。この問題解決に向けた行動は、特に野良猫と人のより良い共生のモデルケースになりうるのではないかと強く感じる。そしてなにより全国より訪れる観光客は、猫との共生について正しい認識と理解をする必要性がある。人間関係の狭間にたたされた存在である猫たちに笑われてしまわないよう、それぞれの立場から考えそしてなにより実行していくことが求められる。
そして妙宣寺住職 加藤慈然氏による動物供養祭が行われ、慰霊碑には「ヒトと動物の関係学会秋季シンポジウム」が刻まれ、除幕式も行われた。ヒトと動物の関係学会、そして本シンポジウムの開催がまさに尾道の猫との共生に係る行動の原動力として力添えできることを本当に嬉しく思う。
ヒトと動物の関係学会常任理事 内山秀彦(東京農業大学)
永澤巧(東京農業大学)
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